日本という国
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161 【歴史的意義】 九州大学名誉教授の今いま井い源げん衛え氏は、「源氏物語への招待」(小学館。1997年刊)の中で、「源氏物語」が、1000年前に生み出されてから今日までの長い年月の間に「受難の時期が度々あった」と次のように書いている。 「儒教が幅をきかした江戸時代には、源氏物語は淫乱をそそのかす書物として散々、悪口を言われたし、50数年前の敗戦以前までは、これまた皇室に不敬を犯したといって、軍部から非国民呼ばわりを受けた。しかし、その間にも読者はいつも大勢いたので、熱心な読者たちは、あるいは、明日の命も知れぬ戦乱の巷ちまたの中で、あるいは深しん山ざんの僧そう坊ぼう(僧侶の住居)で、また薄暗い女部屋で、五十四帖にのぼる長編を飽きもせずに筆で写して、次の時代の人々へそれを受け渡していった。源氏物語はこうして今日までほぼ無傷で伝えられてきた。その時々に現れた野蛮な権力者の力も到底、読者たちからその愛読書を取り上げることはできなかったのである」。 ☆ 現代語訳 「源氏物語」の現代語訳は、これまでに与よ謝さ野の晶あき子こ、谷たに崎ざき潤じゅん一いち郎ろう、円えん地ち文ふみ子こ、田た辺なべ聖せい子こ、瀬戸せと内うち寂聴じゃくちょう (本名・瀬戸内晴はる美み)ら著名な作家によって出版されている。 10年の歳月をかけて「現代語訳『源氏物語』」を完成させた瀬戸内さんは、「作者の紫式部が宮廷で宮仕えする職業婦人というキャリアウーマンだったことを考えても興味深い。世界に類のない千年前の『源氏物語』の凄さをもう一度日本人一人ひとりに知ってもらうために、現代語訳に取り組んだ」と話している。

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