日本という国
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170【桜の花の色つやはすっかり色あせてしまったなあ 何もしないで降り続く長雨を眺めながら物思いにふけっている間に 自分の容色もいつの間にか衰えてしまった】 ☆ 君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣ころも手でに 雪はふりつつ (光こう孝こう天皇) 【あなたに贈ろうと 早春の野に出て若菜を摘んでいると 私の着物の袖に 淡雪がしきりに降っていましたよ】 ☆ 月見れば ちぢに物こそ かなしけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど (大おお江えの千ち里さと) 【秋の月を眺めていると あれこれ とめどなく物ごとが悲しく感じられる 秋は自分だけに訪れるというわけでもないのに】 ☆ ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花のちるらむ (紀きの友とも則のり) 【日の光がゆったりとしている春の日なのに 桜の花はどうして落ち着いた心もなく 散り急ぐのだろうか】 ☆ 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける (紀きの貫つら之ゆき) 【あなたの心はどうでしょうか 分かりません しかし 昔なじみのこの地では 梅の花が昔のまま美しく咲き いい香りを放っている】 ☆ 忍ぶれど 色にいでにけり わが恋は ものや思ふと 人の問うまで (平たいらの兼かね盛もり) 【私の恋は誰にも知られまいと隠していたけれど とうとう顔色に出てしまった 物思いをしているのですか と人が尋ねるくらいに】 ☆ 逢あい見ての 後のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり (権ごん中ちゅう納な言ごん敦あつ忠ただ) 【思いがかなって逢ってからの切ない恋しさに比べると 逢う前は大した物思いをしなかったのだなあ】 ☆ 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな (藤ふじ原わらの義よし孝たか) 【あなたに逢うためなら死んでも惜しくはないと思っていた命ですが 逢うことができた今は 長生きしたいなあ とつくづく思う気持ちになりましたよ】

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